一瞬の夏! は続く 親子二代のタイトルマッチ

試合後、控室でインタビューを終えた内藤親子と沢木耕太郎氏は写真を撮った。

試合後、控室でインタビューを終えた内藤親子と沢木耕太郎氏は写真を撮った。

小説『クレイになれなかった男』(『敗れざる者たち』に収録)、「一瞬の夏」のモデルとなった主人公カシアス内藤氏。

ノンフィクション小説「一瞬の夏」はプロボクサー・カシアス内藤が、名伯楽と云われ世界チャンピオンを何人も育てたボクシングトレーナーであるエディ・タウンゼントともに世界チャンピオンを目指す姿を描いた作品だ。

著者は沢木耕太郎氏。

沢木氏の作品には、浅沼稲次郎社会党委員長暗殺事件で刺殺された浅沼と、その犯人であり鑑別所で「天皇陛下万才、七生報国」と壁に書き自決した山口二矢少年を描いた『テロルの決算』もある。

カシアス内藤氏を題材として取り上げた作品では、アリスが歌い大ヒットした「チャンピオン」という歌も有名だ。

チャンピオン アリス

カシアス内藤氏は東洋太平洋チャンピオンでボクシング人生を終えた。

カシアス内藤の本名は内藤純一だ。モハメド・アリの改名前の名前「カシアス・クレイ」から命名された。

誰もが容姿で分かるが、黒人のアメリカ兵と日本人女性との子として生まれたハーフだ。父は昭和26年(1951年)に朝鮮戦争で戦死している。

見た目は父親に近い風貌だから子供の頃は辛い目にもあっただろうと想像させる。その内藤氏を子供の頃から知る幼馴染らが、周りで応援し支えている。

ボクシングがカシアス内藤氏の人生を社会の表舞台に登場させた。ボクシングが人生を変えたと云っても過言ではないだろう。

しかもカシアス内藤氏の人生そのものが、生まれた時から人生ドラマなのだ。

その内藤氏の長男が内藤律樹氏だ。

1月13日の夜、息子である内藤律樹選手が父親であるカシアス内藤氏にボクシング人生で並んだのだ。父と同じ東洋太平洋チャンピオンになった。

おめでとう! 親子二代のチャンピオン誕生のドラマだ。

作家の沢木耕太郎氏も会場に来ていた。

試合後、控室でインタビューを終えた内藤親子と沢木耕太郎氏は写真を撮った。

感慨深いと考えるのか。感慨無量と考えるのか。作家は無言で写真に納まっていた。

父に並んだ息子はまだ若い。次には父が果たせなかった世界チャンピオンへの夢を追いかける。父親を超えるために。父も息子を鍛える。

世界チャンピオンになれるか否かは分からない。

かつて実力は世界に到達しているが、同時代にWBAもWBCも歴史に残る名世界チャンピオンが存在し、両者とも死闘を展開して世界チャンプになれなかった者はいくらでもいる。

今はIBFとWBOもあり、階級も増えたので世界チャンピオンになるチャンスは増えている。

実力だけではない運も大事であり、興業の世界だからリング外の事情も左右する。

気になるのは内藤律樹選手が日本チャンピオンになったころからスカッとしたノックアウトがないことだ。

今回は9回1分14秒TKO勝ちしてスーパーライト級王座決定戦を制した。

内藤にとっては平成26年に獲得した日本スーパーフェザー級に続き、2階級上げて4戦目で2本目のベルトになった。

内藤律樹氏本人も「このベルトを持って終わりじゃ仕方ない。これはステップ。使える武器があるのは分かったが、世界を目指していくはまだまだ甘い」とのことだ。

父が果たせなかった世界挑戦へ向けて「もっと強い相手と勝負したい。海外にも出て行きたい」と意欲を示した。

カシアス内藤氏も「並んでくれたのはうれしい。あとは越えるのを見送るだけ。まだ先がある」とのことだ。

鈴木信行は内藤律樹氏の戦いをデビュー戦から見続けてきた。夢は父から息子に受け継がれた。

小説「一瞬の夏」の続編の結果を見届けたい。

(公式ブログより)